◇ 東京高裁 平21.1.8決定(判タ1302-290)
1 決定
① 破産法42条2項により、債権差押命令は、破産財団に対して効力を失う
が、破産法の規定の体裁に照らしても、絶対的に無効となるものでは
ない。
② 形式的に、破産手続と強制執行手続が併存することにより、特に、
債権差押命令においては、第三債務者にとって、権利関係が簡明である
とはいえず、破産管財人の権利行使に事実上の障害があると推測される
ことから、取消しの必要性がある。
③ 債権差押命令の取消しにより、差押債権者は、破産手続が廃止される
などした場合には、再度、強制執行の申立てをしなければならないなど
の不利益を被るが、破産管財人が取消しを上申する場合には、その可能
性が限りなく小さい。
2 強制執行の手続は、破産財団に対して効力を失う(破産法42条2項)が、
その趣旨は、破産財団に対する関係においてのみ無効(相対的無効)となるに
過ぎない。
3 ① 停止説
② 手続の安定性、明確性のため、取消処分をするのが相当であるとする
取消説
4 東京地裁民事執行センターは、不動産強制執行及び債権強制執行のいずれに
ついても停止説に従って運用していたが、平成12年ころに、債権執行について
のみ取扱いを改め、破産管財人からの取消しの上申があれば、職権の発動
として債権差押命令の取消決定をすることとしている。
5 破産法42条2項については、目的財産が換価されることなく破産手続が解止
になった場合には、個別執行手続の効力が当然に回復するものと解されて
いる。
6 本決定は、停止説の立場に立ちつつ、差押債権者の不利益がほとんど想定
されない場合であるから、このような場合に限っては、第三債務者及び
破産管財人の事実上の利益に配慮し、執行手続を取り消す取扱いも是認し
得るとしたものである。
7 本件差押命令の取消しは、抗告人が法律の規定に従わなかったことに
よって取り消された場合(民法154条)には当たらないから、差押えによる
時効中断の効力は取消決定の確定の時まで続くものと解される。