◇医療法人の定款に当該法人の解散時にはその残余財産を払込出資額に応じて
分配する旨の規定がある場合において、同定款中の退社した社員はその出資額
に応じて返還を請求することができる旨の規定は、出資した社員は、退社時に
当該法人に対し、同時点における当該法人の財産の評価額に、同時点における
総出資額中の当該社員の出資額が占める割合を乗じて算定される額の返還を
請求することができることを規定したものと解すべきである。
(平22.4.8第一小法廷判決)
1 1審は出資割合説を採ったのに対し、東京高等裁判所は出資額説を採った。
最高裁は、出資割合説により解釈すべきであるとした。
2 本件につき、Xの父母のYへの経営の関与の在り方やXの請求額との関係で
Xの請求が権利濫用になることがあり得ることを述べた上で、Xの請求額や
Xの請求が権利濫用に当たるかどうかについて審理を尽くさせるため、原審に
差し戻した。
3 出資割合説によることは、結局、法人の利益が社員に分配されることとなる
のであり、医療法人の非営利法人性と反するのではないか、また、返還額が
多額にわたることが多くなり、医療法人の経営に悪影響を及ぼし好ましくない
のではないかとの指摘もされていた。
4 平成16年、厚生労働省医政局長による「いわゆる『出資額限度法人』につい
て」との通知が発せられ、いわゆる出資額限度法人という形態が説明されて
いる。
平成18年法律第84号による医療法の改正により、改正後に設立された医療
法人については、医療法人の解散時の残余財産については、国、地方公共
団体他の医療法人等に帰属することとなり、原則として直ちに出資者に対して
残余財産を分配することが許されなくなる。
5 本件のYは平成18年の医療法の改正前に設立されたものであるところ、本
判決は、同改正後においても、改正前に設立された医療法人における、従前の
モデル定款と同様の定款については、従来から判例等が採ってきたところと
同様、出資割合説を採ることを明らかにした。
6 補足意見
持分の定めがある社団たる医療法人において、出資社員の退社による返還
請求額が多額となり医療法人の存続が脅かされるという場合があり得るとして
も、当該医療法人の公益性を適切に評価し、出資者が受ける利益と当該医療法
人及び地域社会が受ける損害を客観的に比較衡量するという、権利濫用法理の
適用により妥当な解決に至ることが可能である。