民訴法77条の優先弁済権(判タ 1389-102)(最高裁平25.4.26第二小法廷決定)

1 本決定は、民訴法77条所定の優先弁済権の意義につき、
  「被供託者が供託金につき還付請求権を有すること、すなわち、被供託者が、
  供託所に対し供託金の還付請求権を行使して、独占的、排他的に供託金の
  払渡しを受け、被担保債権につき優先的に弁済を受ける権利を有すること
  を意味する」として、
  民訴法77条が被供託者に先取特権その他の会社更生法2条10項所定の
  担保権を付与した規定であると解することはできないとした。


2 民訴法77条所定の優先弁済権の意義につき本決定が説示する
  ところは、還付請求権説といわれる考え方を採用したものである。


3 旧民訴法113条は、供託された金銭等の上に被供託者が有する権利につき、
  「質権者ト同一ノ権利」を有すると定めていたが、この文言の意義については、
  大別して法定質権説と還付請求権説の対立があったといわれている。


4 現行民訴法は、上記解釈の対立を解消すべく、「質権者ト同一ノ権利」という
  表現を改め、営業保証供託制度に関する諸規定等を参考に、「他の債権者に
  先立ち弁済を受ける権利」を有するものと規定した。
  これが民訴法77条であり、立案担当者の説明によれば、同条は還付請求権説を
  採用したものであるとされている。
  本決定は、立案担当者の見解及び通説に従い、還付請求権説を採ることを明ら
  かにしたものである。


5 還付請求権説に立つ限り、民訴法77条が被供託者に特別の先取特権
  付与した規定と解することはできないというべきである。


6 権利証明書面の入手方法
  供託金の還付を受けるには、「還付を受ける権利を有することを
  証する書面」(以下「権利証明書面」という。供託規則24条1項1号本文)
  を供託物払渡請求書に添付しなければならない。


7 本決定は、被供託者は、管財人を被告として、被供託者が、
  供託金還付請求権を有することの確認を求める訴えを提起することが
  できるとして、これを認容する確定判決の謄本は権利証明書面に当たる
  ものとした。
  この確認の訴えは、供託金還付請求権が管財人と被供託者のいずれに
  帰属するのかを確認するものではなく、被供託者が強制執行停止決定
  によって損害を被ったため供託金の還付を受ける権利があることを
  確認するものである。
  したがって、その判決理由においては、被担保債権の存在(すなわち
  当該供託に係る強制執行停止により生じた損害及びその額)及び
  これが当該供託金によって担保されるものであることが認定される
  必要がある。


8 通説は、強制執行の停止(遅延)と相当因果関係のある損害全てが
  担保されるという立場に立っており、担保提供者に倒産手続が開始さ
  れた場合には、強制執行が停止されなかった場合に担保権利者が
  強制執行によって得たであろう金額と、倒産手続により受ける配当の
  額との差額が損害となるとする見解が有力である。
  (平成20.2.28 大高判 判タ 1278-320)(大高判 平成17.10.21 金判 1228-14)