1 申立て却下(判タ1330-272)
2 民法306条2号の雇用関係によって生じた債権についての先取特権に基づき
債務者の有する債権の差押えを求めるには、民事執行法193条1項により、
「担保権の存在を証する文書」の提出が求められているが、その文書は、
この種の債権差押命令の審理の特性(債権者の提出した主張及び証拠に
基づいてのみ審理され、一般債権者に不服申立ての機会がないこと等)や
その権利内容が一般債権者に優先する強力なものであることにかんがみ、
担保権の存在を認定できる高度な証明力を持つものであることが必要である
と解するのが相当であるところ、本件は抗告人と債務者との間に雇用契約が
存在することを窺わせる資料は存するものの、抗告人は先取特権の発生原因
事実である給料額の定めを高度の証明力を有する文書によって証明したとは
いえないとして、申立てを却下した。
3 「担保権の存在を証する文書」については、先取特権の存在を直接かつ
高度の蓋然性をもって証明する債務名義に準ずる文書に限定する準名義説と
、文書の数、種類、内容等を問わないとする書証説とがあり、実務上は、
複数の文書を総合して担保権が存在するとの心証を得ることができれば
足りるとする書証説による運用が確定している。
4 書証説に立つ場合であっても、債権差押命令は債務者の反論反証を持つ
ことなく発令され(民事執行法193条2項、145条2項)、しかも、先取特権者
は一般債権者に優先するにもかかわらず、通常は一般債権者の知らない間に
執行が完了してしまい、一般債権者に不服申立ての機会がないことなどから
、当該文書自体において客観性をもった高い証明力が要求されると解され
、また、当該文書が私文書であれば、成立の真正の証明が必要になる。