精神障害者の自殺的な転落と自殺免責(奈良地裁平22.8.27判決)(判

1 Yは、上記転落は、Xが自殺を図るため故意に行ったものであるから、
 Yは免責条項により、Xに対する高度障害保険金の支払いを免責される
 などと主張した。


2 上記転落は、Xの自由な意思決定能力が喪失されたといえるのと同程度
 に著しく減弱させた結果なされたものであるとみるのが相当であるなどと
 して、自殺免責の主張を認めず、Xの本訴請求を認容した。


3 上記条項の趣旨は、生命保険契約における信義誠実の原則、保険契約が
 不当の目的に利用されるのを防止するためにあると解されている。


4 精神障害者の自殺について、保険者の免責を認めなかった裁判例としては、
 大分地判平17.9.8判時1935号158頁、東京地判平11.8.30判タ1063号238頁
 などがある。


5 精神状態に起因する自殺企画行為のすべてが免責事由の「故意」による
 ものではないと評価することは、契約当事者の合理的意思に反するもの
 であって相当ではなく、本件転落が「故意」に該当しないというためには、
 ① 原告の本来の性格・人格
 ② 本件転落に至るまでの原告の言動及び精神状態
 ③ 本件転落の態様
 ④ 他の動機の可能性等の事情を総合的に考慮して、当該精神障害
   が原告の自由な意思決定能力を喪失ないしは喪失と同程度に
   著しく減弱させた結果自殺企画行為に及んだものと認められる
   ことを要する


6 その評価に際しては、純然たる自然科学的評価ではなく、原告が保険契約者
 と保険者との間の高度の信頼関係を一方的に破壊したか否かの観点から
 されるべきである。