(最判解説)(246頁以下)
1 離婚に伴う慰謝料として配偶者の一方が負担すべき損害賠償債務の額を
超えた金額を支払う旨の合意は、右損害賠償債務の額を超えた部分に
ついて、詐害行為取消行使の対象となる(判決要旨二)。
2 本件 配当表の変更を求めた配当異議訴訟
3 事実関係
他の債権者を害することを知りながら、慰謝料として2000万円を支払う
ことを約し、慰謝料支払公正証書が作成された。
4 第一審は、本件合意は通謀虚偽表示により無効である。と判示。
原審は、通謀虚偽表示であるとはいえないが、財産分与に仮託してされた
ものであり、詐害行為に該当する。と判示。
5 本件合意のうち、扶養的財産分与及び離婚に伴う慰謝料として相当な
部分については、既に発生した法律上の債務の承認行為と評価されるもの
であり、それを超える不相当に過大な部分は、慰謝料等支払の名を借りた
贈与契約ないし新たな債務負担を内容とする和解契約ともいうべきもの
である。
6 最高裁昭和58年12月19日判決
原則として、財産分与は債権者による取消しの対象となり得ず、相当性を
基準とする立場を採ることを明らかにした。
近時の学説は、相当性判断の明確な枠組みを提示すべく、財産分与を
(1) 共同財産の清算分配の要素、
(2) 一方配偶者の扶養の要素、
(3) 離婚による損害賠償の要素、
という三つの部分に分け、各要素ごとに分析する傾向にある。
7 本判決は、離婚に伴う慰謝料を支払う旨の合意は、配偶者の一方が、
その有責行為及びこれによって離婚のやむなきに至ったことを理由
として発生した損害賠償債務の存在を確認し、賠償額を確定してその支払
を約する行為であって、新たに創設的に債務を負担するものとはいえない
から、詐害行為とはならないが、当該配偶者が負担すべき損害賠償債務の
額を超えた金額の慰謝料を支払う旨の合意がなされたときは、慰謝料支払
の名を借りた金銭の贈与契約ないし対価を欠いた新たな債務負担行為と
いうべきであるから、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと
判断した。
8 法律上不法行為により慰謝料を支払うべき義務が発生している場合に、
慰謝料を支払うことは、既に発生した不法行為による損害賠償債務を
弁済する行為であって、一般財産の減少を来すわけではない。
原則として債権者を害するとはいえず、詐害行為になることはないと解すべき
である。
9 債務者が債務超過となってから債務負担行為に及んで任意に消極財産を
増加させ、既存の債権者害することを阻止することができないとすると、
不当な結果を招くことになる。しかも、金銭贈与契約ないし和解契約締結
の後これを履行(弁済)することは、通謀して他の債権者を害する意思を
もってする場合を除き、原則として詐害行為とならないとされていること
(最高裁昭和33.9.26判決)に照らせば、契約の段階で詐害行為取消権行使
の対象となると解さなければ、履行の段階でも取り消すことができない
結果となりかねない。
10 したがって、対価のない債務負担行為は、詐害行為となり得る。
他方、法律上不法行為により慰謝料を支払うべき義務が発生している場合
に慰謝料を支払う旨の合意をすることは、損害賠償債務の存在を確認し、
賠償額を確定してその支払を約する行為であって、新たに創設的に債務を
負担するものとはいえないから、詐害行為とはならない。