1 偏頗行為否認の対象とならないのは、新規債務についての担保供与や
債務消滅行為である(本条(1)柱書かっこ書参照)。
2 偏頗行為否認の根拠となるのは、債権者間の平等の確保であるが、
新規に出えんして債権を取得する者については、従来の責任財産の
平等分配を期待する既存債権者との間の平等を確保する必要がない
からである
3 実質的には、これを否認の対象とすると、破産者が救済融資を受ける途を
閉ざすことが根拠となる。
4 この種の取引は、講学上、同時交換的取引と呼ばれるが、実質は、偏頗行為
否認の対象となる危機時期においてなされた新規信用供与に対する担保供与
または債務消滅行為にあたれば足り、両者が同時交換的になされることは、
本質的要素ではない。
5 したがって、すでに根抵当権などの担保が供与され、その後に追加の新規融資
がなされて、根抵当権がその部分をも担保することになった場合も、新規の
債務について供与された担保とみなされる。
6 新規債務か既存債務かの判断基準は、取引としての一体性に求められる。
7 債務消滅行為に関して、買主の破産において、あらかじめ売買契約が成立し
ていたことを前提とし、危機時期において買主が目的物の引渡しを受けるの
と同時に代金の支払をなしたことが、新規債務についての弁済にあたらず、
否認可能性があるとする。
受益者の代金支払請求権は、目的物の引渡しを内容とする同時履行の抗弁権
によって担保されているものであり、引渡しという経済的価値の移転と
引き換えに代金の支払を受けている点に着目すれば、新規債務の弁済に準じ
るものとして扱ってよいと思われる。