本人確認情報提供制度と司法書士の過失(東地判S24.12.18)(判タ1408号358頁)

1.Aが所有する不動産をB、Cと順次売買するにあたり、原告がCに対して売買のトラブルにより生じた損害を保証する契約を締結していた。AB間の所有権移転登記手続の依頼を受けた司法書士(被告)は、本人確認における注意義務を怠ったため、DをAであると誤認識し、AからBへの所有権移転登記手続の申請を行い(以下「本件登記申請」という。)、その旨の登記が経由された。原告は、上記保証契約に基づきC(Aから所有権移転登記抹消登記手続請求訴訟を提起された)から債権差押えを受ける等の損害を被ったとして民法709条に基づく損害賠償を求めた。
2.本件の主たる争点は、被告がDの本人確認情報を作成するにあたり、司法書士として要求される注意義務を怠ったか否かである。なお、本人確認の際に、Dが被告に提示した運転免許証が偽造の運転免許証であったことについては、当事者間に争いがない。
3.本人確認情報提供制度の趣旨からすれば、司法書士等の資格者代理人が本人確認を行うに当たっては、登記義務者本人に対する事前通知制度に代替しうるだけの高度の注意義務が課されていると判示した上、被告の行ったDに対する本人確認が不十分かつ不適切なものであるとし、過失があったと認定している。
4.本件の運転免許証は、その有効期間について誕生日が「昭和10年5月23日」と記載されていたのであれば、「平成24年6月23日」と記載されていなければならないところ、「平成24年5月23日」と記載されていたのであるから、一見して不審な運転免許証であると気付くべきであったというほかない。
 運転免許証の有効期間が誕生日から起算して1ケ月を経過する日であることは、道路交通法92条の2第1項に明記されている以上、司法書士として当然に知っておかなければならない知識であると判示し、有資格者としての義務としては運転免許証の提示を受ける日において有効なものかどうかのみ確認すれば足りるという旨の被告の主張を排斥している。
5.本人確認情報提供制度の制定経緯は、従前の保証書の制度を利用した不正登記が行われているとの批判があったために、(1)登記義務者について住所変更登記がされている場合には、現住所の他に前住所にも通知書を発送し、かつ本人限定受取郵便によって通知をするなど厳格な手続によって登記義務者に事前通知をすることとする一方、(2)司法書士や公証人等の資格を有する者が、登記義務者本人であることを確認するために必要な情報を提供し、かつ、登記官がその内容を相当を認めたときは、事前通知をしないまま登記手続を行うこととされたものである。