退職後の競業避止条項が公序良俗違反とされた事例

福岡地裁平成19.10.5判決(判タ1269-197)

1.退職後一定期間は使用者である会社と競業行為をしない旨の入社時に
 おける特約や就業規則は、従業員の生存や職業選択や営業の自由を侵害
 することになるから、上記特約や就業規則において競業避止条項を設ける
 合理的事情がない限りは、職業選択や営業の自由に対する侵害として、
 公序良俗に反するとし、従業員が雇用期間中、取得した知識や技能を
 退職後活用して営業等することは許されるとした上で、その知識等が秘密
 性が高い場合には、その秘密等を会社が保持する利益は保護されるべき
 であり、それを担保するために、退職後一定期間、競業避止を認めること
 は、合理性を有する。

2.会社との間で取引関係のあった顧客を従業員に奪われることを防止する
 という目的のみでは、競業避止条項に合理性を付与する理由に乏しいが、
 この目的を主たる理由とする場合でも、会社が所有していた顧客に関する
 情報の秘密性の程度、会社側において顧客との取引の開始又は維持のため
 に出捐(金銭的負担等)した内容等の要素を慎重に検討して、会社に競業
 避止条項を設ける利益があるのか確定する必要がある。

3.他の従業員への影響力、競業制限の程度、代替措置等の要素の存否を
 検討し、会社と従業員の利益を比較考量して、競業避止条項を設ける合理
 的事情がある場合には、公序良俗に反しない場合もあるとする。

4.判例や学説の分析、整理は、下井隆史『労働基準法(第3版)』174頁、
 小畑史子「退職した労働者の競業規制」ジュリ1066号119頁が詳しい。