1.① 判例は、古くから完成された建物の所有権は、原始的に請負人
に帰属し、引渡しによって注文者に移転する。
② 注文者が材料の全部又は主要部分を提供した場合や、請負人が
材料を提供した場合でも、注文者がその購入代金を供給したと
きには、完成された建物の所有権は、常に原始的に注文者に
帰属するとするのが従来の判例・通説である。
2.現在の実務において、請負人が、建物の建築完成前後の頃に倒産し
行方不明になったような場合、請負人の債権者と注文者との間で、右
請負人の建築した建物の所有権の帰属につき、時々争われることが
ある。
3.最判平成5.10.19(判タ835-140)
建物建築工事請負契約において、注文者と元請負人との間に、契約
が途中で解除された際の出来形部分の所有権は注文者に帰属する旨の
約定がある場合に、当該契約が中途で解除されたときは、元請負人
から一括して当該工事を請け負った下請負人が自ら材料を提供して
出来形部分を築造したとしても、注文者と下請負人との間に格別の
合意があるなど特段の事情がない限り、当該出来形部分の所有権は
注文者に帰属すると解するのが相当である。
4.材料提供
① 最判昭和46.3.5は、建物建築の請負契約において、注文者の所有
または使用する土地の上に請負人が材料の全部を提供して建築
した建物の所有権は、建物の引渡しの時に請負人から注文者に
移転するのを原則とする。
② 最判昭和54.1.24は、特約のない限り、請負人が建物の建築を
完成した場合には、その所有権は一応請負人に帰属するという
ことを前提としていることは、その判文上明らかである。
5.請負代金の支払があった場合
① 判例は、請負人が材料を提供した場合でも、注文者が建物の
建築完成前に請負代金を支払ったときは、注文者が原始的に
建物の所有権を取得するとしている。
② 東京高判昭和59.10.30(判例時報1139-42)は、建築主である
注文者に原始的に帰属させる旨の暗黙の合意があったものと
推認するのが相当であるとする。
③ 最判昭和44.9.12(判例時報572-25)は、注文者が、請負人に
対し、全工事代金の半額以上を棟上げのときまでに支払い、
なお工事の進行に応じ残代金の支払をしてきた場合には、特段
の事情のない限り、建築された建物の所有権は、引渡しを待つ
までもなく、完成と同時に原始的に注文者に帰属するものと
解するのが相当である。
④ ②の判決は、注文者が請負代金を支払っていることから、当然
に建物の所有権が原始的に注文者に帰属するとして、③の判決
のように、所有権の帰属に関する当事者の暗黙の合意を推認す
ることはしていない。