否認の登記(法260条)

1 特殊登記説
  否認の登記は、否認の効果の相対性を踏まえて、否認による物権変動と
 いう特別の物権変動を公示するために、破産法が特に認めた特殊な登記
 であるとする考え方。
  否認の効果は破産財団と受益者との関係で相対的に生じるにすぎない
 から,このような特殊な効果を反映させるために特殊な登記とする必要
 がある。
  破産手続が終了した時点で否認権の行使によって回復した不動産が
 破産財団に残存していた場合には、その所有権は受益者に復帰すること
 になるが、その際に、否認の効果として受益者への所有権移転登記まで
 抹消してしまっていたのでは回復登記が必要となり、受益者の負担が
 重くなるのに対し、否認の登記をするだけであれば、このような不都合
 を回避することができることを根拠とする。


2 登記の実務では特殊登記説に基づく取扱いがされていると考えられる。


3 特殊登記説に立つことを前提として、破産管財人が回復した財産を
 任意売却等した際に、受益者の登記等を抹消するなどの手当てをして
 いる(260条2項、3項)


4 破産手続廃止の決定が確定した場合等における否認の登記の抹消の
 手続が整備されている(260条4項)


5 手続等
  否認請求の勝訴判決が確定し、又は否認の請求を認容する決定が確定
 したときは、破産管財人は、否認の登記を申請しなければならない(260条1項)。


6 否認権の行使により、その対象となった権利は破産財団に回復するが、
 否認の登記はこのような物権変動を公示するものとして、その実質は
 移転登記又は抹消登記としての効力を有する。したがって、否認の登記
 がされている場合には、受益者又は転得者を登記義務者とする登記の
 申請は受理されない。


7 登記の目的として「○番(転得者)、○番(受益者)所有者、○番
 否認登記抹消」と、登記原因として「平成○年○月○日売買により破産
 法260条第2項に基づき平成○年○月○日登記」等と記録される。


8 第261条 登録免許税を課さない。


9 破産管財人は「破産財団との関係で失効」しているので、差押がない
 ものとして、差押対象債権の回収をすることができる。


10 対象債権を回収しないまま破産手続が終了すると、破産財団はなく
 なり、差押は復活する。このような「財団との関係での失効」というの
 は、否認の効果とパラレルである。
  否認の効果は「破産財団を原状に復する」(167条1項)である。財団
 との関係での相対的原状復帰である。