不動産を親族に遺贈する旨の自筆証書遺言作成後に、当該不動産売却のため、不動産業者との間で専任媒介契約を締結し更新したことが、民法1023条2項「抵触」に当たらないとして、遺言の撤回があったとみなすことができないとされた事例(東京地判平成30年12月10日判タ1474号243頁)

1 亡父が、自筆証書遺言作成後、同遺産を構成する各不動産を売却するため、不動産業者との間で専任媒介契約を繰り返し締結し、同各不動産を売却する意思を示す等しており、民法1023条2項により上記遺言は撤回されているから、原告は相続により同各不動産を取得しているなどとして、亡父の遺言執行者に選任された被告に対し、所有権に基づき、原告が同各不動産を所有することの確認を求めた事案である。

2 Xが上記不動産のほかに、亡父の遺産として2000万円をこえる財産を相続していること、亡父と受贈者である前記親族らとの交流関係、亡父が結局同不動産を売却していないことなどの事情を指摘した上、上記専任媒介契約等が本件遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかであるといえず、民法1023条2項の「抵触」に当たらない以上、本件遺言が撤回されたとは認められない、とした。

3 最高裁が、「同条2項・・の法意は、遺言者がした生前処分に表示された遺言者の最終意思を重んずるにあることはいうまでもないが、他面において、遺言の取消は、相続人、受遺者、遺言執行者などの法律上の地位に重大な影響を及ぼす者であることにかんがみれば、遺言と生前処分が抵触するかどうかは、慎重に決せられるべきで、単に生前処分によって遺言者の意思が表示されただけでは足りず、生前処分によって確定的に法律効果が生じていることを要する旨判示した(最三小判昭和43年1月24日判タ230号175頁)。