遺留分の算定と債務加算

◇相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合
 において、遺留分の侵害額の算定に当たり、遺留分権利者の法定相続分
 応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することの可否
(平21.3.24第三小法廷判決(判タ1295-175))


1 相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分
 の全部が当該相続人に指定された場合、遺言の趣旨等から相続債務について
 は、当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの
 特段の事情のない限り、当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思
 が表示されたものと解すべきであり、これにより、相続人間においては、
 当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することに
 なると解するのが相当である(対内的効力)。


2 相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当である
 (対外的効力)。


3 相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し、
 各相続人に対し、指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは
 妨げられない。


4 遺留分の侵害額は、確定された遺留分算定の基礎となる財産額に民法
 1028条所定の遺留分の割合を乗じるなどして算定された遺留分の額から、
 遺留分権利者が相続によって得た財産の額を控除し同人が負担すべき
 相続債務の額を加算して算定すべきものである(平8.11.26第三小法廷判決)。


5 相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ、
 当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合、遺留分の侵害額
 の算定においては、遺留分権利者の法定相続人に応じた相続債務の額を
 遺留分の額に加算することは許されない。
  遺留分権利者が相続債権者から相続債務について法定相続分に応じた
 履行を求められ、これに応じた場合も、履行した相続債務の額を遺留分
 額に加算することはできず、相続債務をすべて承継した相続人に対して
 求償し得るにとどまるものというべきである。