◇ 共益債権の保証人が、弁済により代位した債権の支払を請求したところ、
求償権が再生債権であることから、民事再生手続外でこれを行使し弁済
を求めることができるか否かが争われた事案(金法1897−26)
1 民法501条は、弁済による代位の効果として、求償権の範囲内で、
代位弁済者に移転する本来の債権者の債務者に対する債権(以下「原
債権」という)の行使を認めているにすぎないから、Aの本件請求権
が共益債権であるとしても、再生債権者にすぎないXは、本件請求権
を民事再生手続外で行使することはできない。
2 民法501条柱書の「自己の権利に基づいて求償をすることができる
範囲内」とは、求償権の存否および額による制約のみを意味するもの
である。 (反論)
3 代位弁済者による原債権の行使は、求償権とは別異の債権行使では
あるものの、これを行使する場合には、必然的に求償権の存在をも主張
立証することになり、その行使の可否および範囲については求償権を
行使し得る範囲を超えては認められないのであるから、民法501条
柱書の「自己の権利に基づいて求償をすることができる範囲内」とは、
求償権の存在や額を行使の上限とする趣旨にとどまらず、求償権の行使
に実体法上または手続法上の制約が存する場合には、原債権がその制約
に服することをも意味しているものと解すべきである。
4 法律構成
〔債権移転説〕
代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するために、
法の規定により弁済によって消滅すべきはずの債権者の債務者に対す
る債権(原債権)およびその担保権を代位弁済者に移転させ、代位
弁済者がその求償権の範囲内で原債権およびその担保権を行使する
ことを認める制度であるとする見解。
現在の通説・判例。
5 ① 原債権と求償権とが別債権
② 原債権は求償権を確保することを目的として存在する
6 別債権であることの具体的内容
① 原債権と求償権とは、元本額、弁済期、利息・遅延損害金
の有無・割合等が異なるため、総債権額が別々に変動する。
(昭和61年判決)
② 担保権の被担保債権は、求償権ではなく原債権である。
(昭和59年判決)
③ 原債権と求償権とは、別個に消滅時効にかかる。
(昭和61年判決)
④ 原債権につき時効期間の変更(民法174条の2第1項)があって
も、求償権の時効期間が当然に変更されるわけでない。
(最一小法平7.3.23)
⑤ 原債権と求償権とのいずれを行使してもよい。
7 原債権について求償権確保が現れる場面
① 原債権および担保権は、求償権が消滅すると当然に消滅し、
その行使は求償権の限度に制約されるなど、求償権の存在
およびその債権額と離れ、独立して行使することはできな
い(昭和61年判決)。
② 原債権についての給付請求を認容する場合、判決主文で請求
を認容する限度として求償権を表示すべきである(昭和61年
判決)。
8 債権者が債務名義を有するときは、代位弁済した保証人は、承継執行
文(民事執行法27条、23条1項3号)を受けて原債権の債務名義を行使
することができる。