再転相続と遺産説 (判タ1197-100)

1 本件は、AB夫婦の子であるXが、父Aが死亡し、さらに、Aの相続に係る民法915条1項の熟慮期間が経過した後でAの遺産の分割が未了の間に、Aの相続人でもあるBが死亡したことから、A及びBの各遺産の分割審判を申し立て、これが併合された事件であり、講学上の広義の再転相続といわれている相続関係のの事案である。


2 Bには、遺産分割の対象となる未分割の固有財産はなかった。A死亡時のAの相続人は、X、B、AB夫婦の子であるY1及び同Y2の4名で、X及びY2はAから、Y2はBから、それぞれ特別受益を受けている旨の主張がされていた。


3 原審は、Bに係る遺産分割については、Aの遺産に対するBの相続分は、Aの遺産を取得することができるという抽象的な法的地位であって遺産分割の対象となる具体的な財産権ではなく、Bが死亡したことにより遺産分割によらないで当然にBの相続人に承継されるものであり、かつ、この承継には民法903条の適用がないと判示した。


4 共同相続人が取得する未分割遺産の共有持分権は、物権法上の共有持分権と同様のものであって、実体法上の権利性の認められるものであり、当該共有持分権を取得した相続人が死亡した場合には、その遺産を構成するものと解される。


5 第2次被相続人が取得した当該共有持分権は、第2次被相続人の遺産を構成すると解することになる(以下、この見解を「遺産説」という。)。


6 原決定は、第2次被相続人は第1次被相続人の相続において具体的な財産権を取得しないという見解に立つものである(以下、この見解を「非遺産説」という。)。


7 本決定は、非遺産説を採らず、実務の大勢である遺産説の考え方に立つことを明らかにしたものである。


8 第2次被相続人との関係で特別受益を受けた相続人がいない再転相続の事案において、第1次被相続人及び第2次被相続人の各遺産を一括して分割する場合には、遺産説によっても、非遺産説によっても、再転相続人の最終的な具体的相続分は同じ割合になり、実質的な違いは生じないことになる。


9 Bは、Aの相続の開始と同時に、Aの遺産について相続分に応じた共有持分権を取得しており、これはBの遺産を構成するものであるから、これをBの共同相続人である抗告人及び相手方らに分属させるには、遺産分割手続を経る必要があり、共同相続人の中にBから特別受益に当たる贈与を受けた者があるときは、その持戻しをして各共同相続人の具体的相続分を算定しなければならない。(判旨)