姉弟間の建物所有を目的とする土地の使用貸借につき、使用収益をするのに足りるべき期間が経過したとして、契約終了に基づく建物収去土地明渡請求が認められた事例(東京地裁平成28年7月14日判タ1436号196頁)

1 本件は、国有地の払い下げ時に所有名義人となった姉が、同土地上に約40年間建物を所有し自宅兼仕事場として使用してきた弟に対し、弟が本件土地を使用収益するのに足りる期間を経過したと主張して、建物収去土地明渡を求めたものである。 2 使用貸借契約…

有期労働契約の期間満了時における無期労働契約への転換(最判平成28年12月1日判タ1435号89頁)

1 判決要旨 私立大学の教員に係る期間1年の有期労働契約は、?当該労働契約において、3年の更新限度期間の満了時に労働契約を期間の定めのないものとできるのは、これを希望する教員の勤務成績を考慮して当該大学を運営する学校法人が必要であると認めた場…

原告の被告に対する不貞慰謝料請求権が破産法253条1項2号所定の非免責債権に該当しないとされた事例(東京地裁H28.3.11判タ1429号234頁)

1 被告は、破産手続開始(免責許可)申立において、原告から不法行為(原告の夫との不貞関係)による損害賠償請求権を破産債権として挙げており、破産手続開始決定及び免責許可決定を受けた。原告は、同損害賠償請求権は、破産法253条1項2項の非免責債…

筆界特定を行った事案についての裁判例の動向(法務省民事局付検事・民事第二課担当者)(判タ1429号40頁)

1 筆界特定の年間申請件数は、毎年2500件前後と安定して推移している。 2 筆界特定手続は、対審構造ではなく、対象土地(筆界特定の対象となる筆界で相互に隣接する土地)の他方の所有者は、相手方とはならない(関係人として意見提出等の機会は保障されて…

いわゆる花押を書くことは、民法968条1項の押印の要件を満たさない(最二小判平成28年6月3日判タ1428号31頁)

1.本件は、相続人Xが遺言者Aが所有していた土地について、主位的にAから遺贈を受けた、予備的にAとの間で死因贈与契約を締結したと主張して、相続人Yらに対し、所有権に基づき、所有権移転登記手続を求めるなどした事案である。Aが作成した本件遺言書には…

破産手続開始前に成立した第三者のためにする生命保険契約に基づき破産者である死亡保険金受取人が有する死亡保険金請求権と破産財団への帰属(判例タイムズ No.1426 p32)

1.判決要旨 破産手続開始前に成立した第三者のためにする生命保険契約に基づき破産者である死亡保険金受取人が有する死亡保険金請求権は、破産法34条2項にいう「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権」に該当するも…

被相続人の生前に引き出された預貯金等をめぐる訴訟(判例タイムズ No.1414 p74)

一 法律上の問題点について 1 不法行為構成における法律上の問題点 2 不当利得構成における法律上の問題点 3 遺産分割手続との関係における法律上の問題点 二 事実認定上の問題点 1 預貯金の帰属 2 預貯金の引出行為 3 預貯金引出権限の存否 4 払戻金…

介護事故による損害賠償請求訴訟の裁判例(判例タイムズ No.1423 p78〜)

第1 過失又は安全配慮義務違反 1 転倒 2 転落 3 誤嚥 4 異食 5 褥瘡 6 徘徊・無断外出 7 搬送義務・転送義務等 8 身体拘束 9 入浴に関する事故(転倒以外) 10 暴行等 第2 慰謝料額 第3 その他の争点 1 過失相殺 2 素因減額 3 契約条項の解…

保証人が主たる債務者に対して取得した求償権の消滅時効の中断事由がある場合における共同保証人間の求償権の消滅時効中断の有無(最一小判H27.11.19判タ1721・108)

1.本件は、借入金債務を代位弁済したXが、他の共同保証人であるYに対し、民法465条1項、422条に基づき、求償金残元金と遅延損害金の支払を求めた事案である。 2.Yが求償権の時効消滅を主張した。これに対し、Xは共同保証人間の求償権は主たる…

高齢者のした養子縁組を無効とした原判決を取り消し有効とした事例(東京高判平成25年9月18日判タ1421・140)

1.本判決は、次の3点を重視した。 (1)第1点目は、養親(高齢者)の精神状態の程度である。 本判決は、養親は軽度の認知症であるものの、養子縁組という行為の意義を理解できないほどではないと判断した。 (2)第2点目は、養親が養子縁組を行う動機であ…

自筆証書遺言の文面全体への線引き(民法1024条前段)

1.遺言者自筆証書である遺言書に故意に斜線を引く行為は、その斜線を引いた後になおもとの文字が判読できる場合であっても、その斜線が赤色ボールペンで上記遺言書の文面全体の左上から右下にかけて引かれているという判示の事実関係の下においては、その…

仮差押開放金の取戻請求権に対する差押えが競合した場合の民事執行法165条1号配当要求の終期(東京高決平25・12・27判タ1419・142)

1.債権執行の手続において配当又は弁済金の交付を受けるべき債権者は、民事執行法165条各号所定の時(配当要求の終期)までに差押え、仮差押えの執行又は配当要求をした債権者である(同上柱書)。そして同上1号は、法156条1項又は2項の規定によ…

免責(判タ1403号5頁)

1.「東京地裁破産再生部における近時の免責に関する判断の実情(続)(判タ1403号5頁)」は、免責不許可決定がされた事例及び裁量により免責が許可された事例の一部を紹介するものである。 2.原雅基「東京地裁破産再生部における近時の免責に関する…

事前求償権を被保全債権とする仮差押えは、事後求償権の消滅時効をも中断する効力を有する(最三小判平成27年2月17日)(判タ1412号129頁)

1.本件は信用保証協会であるXが、信用保証委託契約上の事後求償権等に基づき、Yらに対し、金員の連帯支払を求めた事案である。Yらが事後求償権の消滅時効を主張したのに対し、Xは事前求償権を被保全債権とする仮差押えにより消滅時効が中断していると…

請負報酬請求事件における追加変更工事に関する実務上の諸問題(判タ1412号87頁)

第1 追加変更工事の請負報酬請求に関する基本的な主張立証の構造と審理・判断の在り方等 1 請求原因等について 2 被告が追加変更工事の合意を争う場合 3 被告が発注主体を争う場合 4 被告が施行の事実を争う場合 第2 追加変更工事事案において実務上み…

特別縁故者の死亡による申立事件の帰趨(東京高裁H25.7.3判タ1410-122)

1.被相続人(以下「B」とする)の特別縁故者に対する相続財産の分与の申立人(以下「A」とする)が、その申立後に死亡し、相続人のあることが明らかでないとして相続財産法人が成立した場合には、当該相続財産法人がAの地位を承継したものというべきで…

相続分の全部を譲渡した者と遺産確認の訴えの当事者適格(最判H26.2.14判タ1410-75)

1.共同相続人のうち、自己の相続分の全部を譲渡した者は、遺産確認の訴えの当事者適格を有しない。 2.共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は、積極財産と消極財産を包括した遺産全体に対する割合的な持分を全て失うことになり、遺産分割審判…

行政書士に、介護タクシー事業を営もうとする者に対する、手続選択に関する信義則上の助言・説明義務違反が認められるとして、契約締結上の過失に基づく損害賠償責任(不法行為責任)が認められた事例(大阪高判平成26年6月19日判タ1409号255頁)

1.不特定多数人を顧客とする介護タクシー事業を営むことを計画している依頼者に対し、特定旅客事業の許可申請手続をした行政書士が、契約上の過失に基づく損害賠償を求められた事案。行政書士(原告)が、依頼者側(被告ら)に対して未払い報酬と費用の支…

傷害慰謝料基準と判決の認定水準(赤い本2015下巻81頁)

1.別表2では、別表1と異なり、実際の通院期間(通院開始日から通院終了日の間の日数)によらず、実通院日数で基準金額を算定する方式が採用されている。 2.別表2のように、通院期間を基準額算定の基礎におきながら実は実通院日数(極端に言えば通院回数…

本人確認情報提供制度と司法書士の過失(東地判S24.12.18)(判タ1408号358頁)

1.Aが所有する不動産をB、Cと順次売買するにあたり、原告がCに対して売買のトラブルにより生じた損害を保証する契約を締結していた。AB間の所有権移転登記手続の依頼を受けた司法書士(被告)は、本人確認における注意義務を怠ったため、DをAであ…

賃料増減請求により増減された賃料額の確認を求める訴訟の確定判決の既判力(最判H26・9・25判タ1407−69)

1.借地借家法32条1項の規定に基づく賃料増減請求により増減された賃料額の確認を求める訴訟の確定判決の既判力は、原告が特定の期間の賃料額について確認を求めていると認められる特段の事情のない限り、前提である賃料増減請求の効果が生じた時点の賃料額…

農地法5条許可の売買と和解条項

1.条項 (1)被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の農地(以下「本件土地」という。)を○○県知事の農地法5条の規定による許可を条件として代金○○万円で売り、原告はこれを買い受ける。 (2)被告は、原告に対し、平成○○年○月○日限り、本件土地につき…

限定承認における相続財産の管理者の競合

1.限定承認における相続財産の管理者(民法936条1項)と相続財産保存のための相続財産の管理者(民法926条2項、民法908条2項)の競合 2.家庭裁判所は、共同相続人の中から選ばれた管理者の管理が不十分な場合、利害関係人の請求により、相続人以外の第三…

土壌中に有害物質を含む土地売買契約

1 工場跡地をガソリンスタンド用地として購入した売買契約において、土壌中に有害物質が含まれていたことが判明した場合について、買主の錯誤による無効が否定され、また、売主の瑕疵担保責任、売主の説明義務違反による債務不履行責任が否定された事例(判…

成年後見人等の財産に関する権限と限界(小西洋 東京家庭裁判所判事)(判タ1406号16頁)

1 成年後見人等の財産に関する権限と限界について家庭裁判所の立場から説明する。 説明にあたっては、筆者が日頃、成年後見人等からの問合わせに対して回答する際の思考の順序を意識した。 2 後見開始の審判前の保全処分として選任される財産の管理者(家…

企業間における継続的契約の解消

1 企業間における継続的契約の解消に関する裁判例と判断枠組み(判タ1406号29頁) 2 継続的解消の要件としてのやむを得ない事由 継続的契約の一方当事者が契約関係を解消しようとする場合、法律上又は契約上、形式的に解消の要件を満たすとしても、それだ…

再生債権として届出された共益債権

1.民事再生法上の共益債権に当たる債権を有する者は、当該債権につき再生債権として届出がされただけで、本来共益債権であるものを予備的に再生債権であるとして届出をする旨の付記もされず、この届出を前提として作成された再生計画案を決議に付する旨の…

別除権協定(民事再生)と破産(最第一小判平成26年6月5日判タ1414号88頁)

1.別除権の行使等に関する協定(別除権の目的である不動産につきその被担保債権の額よりも減額された受戻しの価格を定めて再生債務者が別除権者に対しこれを分割弁済することとし、再生債務者がその分割弁済を完了したときは別除権者の担保権が消滅する旨…

免責と執行文の付与

1.免責許可の決定が確定した債務者に対し、確定した破産債権を有する債権者が、当該破産債権が破産法253条1項各号に掲げる請求権に該当することを理由として、当該破産債権が記載された破産債権者表について執行文付与の訴えを提起することは許されな…

加重障害と損害額の算定

1.赤本 H18年・下巻 129頁以下。2.逸失利益 (1)逸失利益の算定で着目されるのは以下3点 A 基礎収入の捉え方 B 労働能力喪失率の捉え方 C 素因減額と同様の考え方により、減額をする場合があるか ※裁判例は必ずしも、一定の考え方によっていない…